理学療法士として働くサメ

理学療法士として勉強したことをまとめていきたいと思っています!

リハビリをするとどうなるの?? 整形外科編(高齢者の4大骨折の一つである大腿骨頸部・転子部骨折の治療エビデンス)

#大腿骨頸部・転子部骨折 #理学療法 #リハビリ #医療

 

お疲れ様です!フカヒレです!

今日はどうなるの??シリーズ第一段...

 

「リハビリをするとどうなるの??」

 

僕ら理学療法士が介入するメリットをお話しできたらなーと(笑)

今回は高齢者の骨折で多い大腿骨頸部・転子部の骨折について。

 

先に結論を言うと,

高齢者が骨折すると,適切な手術を行い,適切な後療法を行っても,すべての症例が受傷前の日常活動レベルに復帰できるわけではない

しかし,エビデンス的に大腿骨頸部骨折・転子部骨折の決まったリハビリ治療は確立されていない。

なので,理学療法士などによる個別の評価・治療が必要

あとは,退院しても6カ月は運動頑張りましょう

って感じです。

細かいことは記事を読んでください👍

 

はじめに(エビデンスレベル・推奨Grade)

この後の内容でガイドラインを用いている場合は,エビデンスレベルと推奨Gradeについて記載しているので以下の表を参考にしてください。

 

エビデンスレベル 1)

表3
 
推奨Grade 1)
表4

 

整形外科のリハビリ

高齢者の4大骨折(①脊椎圧迫骨折②大腿骨頸部骨折③上腕骨近位部骨折④橈骨遠位端骨折)の一つである,大腿骨頸部骨折,転子部骨折について。

若い人でも骨折後に安静にしていると,体力や筋力が落ちますよね。それが高齢者となるとほんとに動けなくなり,寝たきりになってしまいます。「痛いから今は動かないでいいや💦安静にしていよう」と思う方もいますが,痛みが取れた時に動こうとしてもうまく動けないのです。

そのために,今では術後すぐにリハビリが始まります。

 

じゃあ手術後のリハビリは何が有効なの?

ガイドライン1)では

患者に対しては,術前から上肢機能訓練や健側下肢機能訓練,また患肢足関節機能訓練を行うことが有用であり,呼吸理学療法,口腔内ケアも行うことが望ましい

術後は翌日から座位をとらせ,早期から起立・歩行を目指して下肢筋力強化訓練および可動域訓練を開始する。

歩行訓練は平行棒,歩行器,松葉杖,T字杖歩行と進めることが多い。特別なリハビリテーションメニュー(患者教育,強力な筋力訓練,歩行指導,作業療法,電気筋刺激など)が試みられ,それぞれの報告では一部のアウトカムにおいて有効性が認められている

しかしsystematic reviewではその研究デザインやアウトカム設定に問題があると指摘され,エビデンスとしては一定の結論に至っていないので,確立したリハビリテーションメニューはない。

最近ではmultidisciplinary rehabilitation(集学的リハビリテーション,多角的リハビリテーション)の早期からの導入が施行されている。有効性は限られているものの,軽度・中等度認知症を有する患者に対しては有効との報告がある

 

multidisciplinary rehabilitationとは

各専門職種の協力の下に行うリハビリテーションであり,その内容としては,整形外科医,老年科医,理学療法士作業療法士,看護師,栄養士,社会福祉士などのチームによって術後から退院後までのプランニングと訓練の実施を行うもの.

 

さらにガイドライン1)からエビデンスをいくつか見ていくと,

 

リハビリテーション内容(運動療法)についてのCochrane reviewでは,通常と異なるリハビリテーションが術後成績に有効であるというエビデンスは高くない.

Handoll HH, Sherrington C:Mobilisation strategies after hip fracture surgery in adults. Cochrane Database Syst Rev 2007:CD001704, EV level I-2

 

⇒英文の結論としては,術後早期または術後のリハビリ期間中に開始する様々な動員戦略の有効性を決定するための無作為化試験からの証拠は不十分である。主に可動性を高めることを目的とした介入を追加的に提供することで得られる可能性のある利益を確立するために、さらなる研究が必要である。

これがいいという声もあれば,効果がないとの声があったり,研究として不十分であったりなど決まった治療はなく,患者さんに対して個別に評価した内容に対しての治療を提供する必要があると考えられますね。セラピストが問題点の抽出をできなければ,改善に時間を要してしまいますね。

 

②平均73歳の100例の患者に,理学療法1日1回の対照群と2回の介入群の比較を行ったところ,術後9週での回復状況に差はなかった.股関節外転筋力に差はなかった.入院期間に差はなかった.死亡率に差はなかった.

Karumo I:Recovery and rehabilitation of elderly subjects with femoral neck fractures. Ann Chir Gynaecol 1977;66:170-176, EV level II-1

 

⇒集中的にたくさんリハビリをしたから早く良くなるというわけではなさそうですね...

患者さんの精神的・身体的・経済的な負担を考えると,不必要な介入は控えましょう。ただ,すべての患者さんに当てはまるわけではなく,患者さんの希望や必要性がある場合には,積極的に行うべきだと思います。自分も認知機能の低下した方や易疲労性の方,合併症の有無などによっては目的をはっきりとして1日2回の介入を行ったりしています。

 

③術後理学療法の効果についてのsystematic reviewでは,最も高いエビデンスレベルとして軽度・中等度認知症を有する患者に対してはmultidisciplinary rehabilitationが有効との報告がある.

Toussant EM, Kohia M:A critical review of literature regarding the effectiveness of physical therapy management of hip fracture in elderly persons. J Gerontol A Biol Sci Med Sci 2005;60:1285-1291, EV level I-2

 

⇒これはなんとなくわかりますね。

今や90歳,100歳でも手術して次の日からリハビリをする時代で,当然認知機能の低下やせん妄は治療を阻害する因子になります。拒否もあれば,理解が難しかったり...ご飯を食べなかったり,痛みで内服を調整したり,せん妄で昼夜逆転したりなどうまくいかないことだらけです。そのため,multidisciplinary rehabilitationのようにカンファレンスなどで適宜患者さんの状態を専門職に相談しながら介入しなければ以前と同様の生活に復帰することはなかなか難しいです。

介入初期から介護保険の申請や必要になりそうなサービスを予測してくこともセラピストに必要になってくると思うので,ゴール設定の段階でイメージできるようにしましょう。

 

以上のような感じで,必ずこのリハビリをしなさい!というのはないみたいです。

 

リハビリの期間は?

ガイドライン1)的には

【Grade B】
術後最低6ヵ月程度は,リハビリテーションを行うべきである.

術後最低6ヵ月程度は,リハビリテーション介入による機能回復が期待できるとする中等度レベルのエビデンスがあるEV level II-1, EV level III-2).

 

とのことで,結構長いです。

ずっと入院をしてリハビリをやるわけではなく,退院後も運動を続けた方がいいということです。うちの病院では,平均1~2カ月ほどで退院していく方が多く,運動の継続を目的に自主練習の指導や外来・訪問リハビリの導入も提案しています。現場の声としては,「日常生活はなんとかできるけど,前のようには歩けない」との声がやはり多いですね。そういった観点からも6カ月程度は運動を行った方がいいことを説明したりできると患者さんも長い目でイメージできるのではないかと思います。

 

予後は?

歩行能力の回復に関してガイドライン1)では,

受傷後,適切な手術を行い,適切な後療法を行っても,すべての症例が受傷前の日常活動レベルに復帰できるわけではない歩行能力回復には受傷前の歩行能力と年齢が大きく影響する。術前の生活が自立していたものは自宅への退院が可能なものが多く,年齢が高いと歩行能力が落ちるものが多い。その他,骨折型(不安定型が不良),筋力,認知症が機能予後に影響する

 

死亡率の関してガイドライン1)では,

1年以内の死亡率はわが国では10%前後,海外では10〜30%と報告されている。

生命予後に影響する因子には性(男性のほうが不良),年齢(高齢者ほど不良),受傷前の歩行能力(低い者ほど不良),認知症(有するほうが不良)などがある。
治療法別には人工骨頭置換術のほうが,骨接合術より死亡率が高い。セメント使用,非使用間での死亡率には有意差がない。

 

以上のことから,体力や筋力の低下や認知機能の低下した高齢者ほどリハビリが大切になってきます。

 

まとめ

大腿骨頸部・転子部骨折の患者さんがリハビリをするとどうなるのか?

⇒みんながみんな骨折する前のように戻れるとは限らないが,決まった治療はない。だから,理学療法士などのセラピストによる個別の評価,個別の治療が大切になる。理学療法士などの介入により,歩行能力の回復や死亡率の減少が望める可能性がある。

 

 

【参考・引用文献,サイト】

1)厚生労働省委託事業 公益財団法人日本医療機能評価機構(旧版)大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン (改訂第2版) | Mindsガイドラインライブラリ (jcqhc.or.jp)