理学療法士として働くサメ

理学療法士として勉強したことをまとめていきたいと思っています!

よく麻痺側や乳癌術後の腕で血圧測定しないでって言うけどどうして?本当にあってる?

#血圧測定 #片麻痺 #乳癌術後 #理学療法 #リハビリ

 

お疲れ様です!フカヒレです!

今日はタイトルの通りの内容です。

健側上腕に点滴入ってるしな...足で測る?麻痺側じゃダメ?などなど

結論から言うと...

 

麻痺側上腕での血圧測定は心疾患の有無にもよるが,基本は左右差がなさそうなのでOK!

乳がん術後の上腕での血圧測定はガイドライン的にはリンパ浮腫の発症・増悪とは大きな関連なしとのことなのでOK!

 

理由は以下の通りです。

 

そもそも健常者で左右差はあるの?

いろいろ検索してみても,収縮期血圧 20 mmHg以上,拡張期血圧 10 mmHg以上,再現性をもって異なる場合が,有意な左右差の目安となる1)。上腕血圧に左右差が認められる場合,大動脈炎症候群や解離性動脈病変の左右主要枝への波及,鎖骨下動脈の粥状硬化病変などが考慮される...などと出てくる。

 

Christopher らによると2)

収縮期血圧が左右で10mmHg以上,または15mmHg以上の差がある場合は,さらなる血管評価が必要な患者を特定するのに役立つかもしれない

また,「15mmHg以上の差は,血管疾患および死亡のリスクの指標として有用である可能性がある」と報告している。

 

基本的に左右差はないが,何度か測定して血圧が15~20mmHg前後以上の左右差がある場合は病院で診てもらった方がいいかもです(笑)

 

麻痺側での血圧測定は?

Taoらの研究3)では,

脳卒中後遺症の片麻痺患者236名を4台の自動血圧計を用いて四肢同時血圧を3回測定し、その平均値を最終値として比較している。

結論的には,脳卒中後遺症の片麻痺患者において,麻痺のある腕または足首とない腕または足首の収取期血圧および拡張期血圧は同程度であった

 

他にも

小林らの報告4)では,

27名の片麻痺患者の血圧,体温,および動脈血酸素飽和度において,麻痺側と健側間で
測定値に差がみられるか検討していた。

Brunnstrom stage Ⅰが12例。

Brunnstrom stage Ⅱ~Ⅵが14例。

結論的には,

 

1.平均体温は,麻痺側が健側より0.17℃高かった。1℃以内の変動であったので臨床的な意味はなかった。
2.収縮期血圧は,健側が麻痺側より0.84mmHg 高かった。また,拡張期血圧は,麻痺側が健側より0.86mmHg 高かった。これは,健康成人の左右差からみても大きな逸脱はなかった
3.健側の SpO2は95.96%で,麻痺側は96.31%であり,麻痺側が高かったが,その差のもつ臨床的意味はなかった。
以上より慢性期の片麻痺患者の麻痺側でのバイタルサイン測定によって健側と同様の値が得られることがわかった

 

二つの文献からも麻痺側,非麻痺側で左右差はない様子...

 

自分としての解釈は

 ・最近の文献での報告は,麻痺による血圧の左右差はない様子。

 ・健常者でも心疾患によっては左右差が生じる

  ⇒結局は心疾患の有無が著名な左右差の原因なのでは?

   麻痺のある患者さん全員が入院時に細かく心疾患を評価しているわけではない

   し,評価を兼ねて左右どっちも最初に測ってみてもいいのでは?と思った。

 

乳がん術後の腕での血圧測定は?

リンパ浮腫診療ガイドライン2018年版5)によると,生活関連因子(採血・点滴,血圧測定,空旅,感染,温度差,日焼け)は続発性リンパ浮腫の発症,増悪の原因となるかについて述べている。

 

採血:大きな関連なし

点滴:証拠不十分

血圧測定:大きな関連なし

空旅:上肢は大きな関連なし,下肢は証拠不十分

感染:ほぼ確実

温度差:証拠不十分

日焼け:証拠不十分

 

「血圧測定など短時間の患肢の圧迫はリンパ浮腫の発症や増悪とは関連しないとする報告が多いが,郭清した患者とセンチネルリンパ節生検のみを施行した患者を同一に扱うべきかについては検討の余地がある。」5)との記載があるが,現段階の研究では大きな関連なしとされている。

 

とは言え,

術後の説明で昔に「手術した方の腕で血圧など測らないでください」と言われている症例も実際にはいました。そのため,乳がん術後の上腕での血圧測定を嫌がる患者様もいらっしゃると思うので,その場合には無理に測らずに非術側や下肢での測定を行うといいなと思います。

 

まとめ

最初に書いたように,麻痺側・乳がん術後の腕で血圧を測定することは悪いことではない様子。しかし,患者背景や現在の状態を考え,担当している患者さんに適した方法で測定するのがやはり大切ですね!

 

【参考・引用文献】

1)Beevers G, et al : ABC of hypertension ; blood pressure measurement, part I-sphygmomanometry ; factors common to all techniques. Br Med J 322 : 981―985, 2001

 

2)Clark CE, et al: Association of a difference in systolic blood pressure between arms with vascular disease and mortality: a systematic review and meta-analysis.

 

3)Tao, L., Tang, M., Peng, H. P., Gu, M. B., Zhang, H. Z., Zhou, G., & Su, H. (2020). Is the blood pressure different between the paralyzed and unaffected arms or legs?. Blood pressure monitoring, 25(5), 242–245.

 

4)小林淳子,川西千恵美:片麻痺患者の麻痺側におけるバイタルサイン測定の可能性,The Journal of Nursing Investigation Vol.11,No.1,2:24-30,March 29,2013

 

5)リンパ浮腫診療ガイドライン2018年版【日本リンパ浮腫学会編 (金原出版)】36-38.